2016/10/01
パナマ文書とタックスヘイブンのこと
こちらは世田谷区にある税理士事務所 女性税理士 松原です。
今日は、パナマ文書とタックスヘイブンについてご紹介します。
2016年9月28日(水)有楽町朝日ホールで行われた、東京税理士協同組合創立55周年記念研修会に行ってきました。
テーマは、税制改革とアメリカ大統領選挙 ー外国企業課税強化と情報収集の強化ー 講師は東京大学大学院教授 中里実先生です。
講演内容の中で特に印象深かった、昨今何かと話題のタックスヘイブンの話を紹介します。
タックスヘイブンとは租税回避地のこと。
「租税回避地」とは、課税が極端に軽い国のことで、カリブ海の国としては、パナマ、バハマ、ケイマン諸島など、ヨーロッパではモナコ、アイルランド、ルクセンブルク、リヒテンシュタイン、スイス、オランダなど、そしてアジアでは香港、シンガポールなどがあります。
これらの国は国土面積が狭く人口も少なく、また自国の産業では経済が成り立たないため、税金の優遇を行うことによって世界の富裕層の資金を集め、雇用の創出を生み出しています。
タックスヘイブンとして機能するためには、課税が軽いことに加え、政治的安定、言語・法律制度・インフラ設備が整っていることが必須です。また、先進国ごとに御用達の場所があります。利用目的は、規制逃れ、課税逃れ、資産隠し、取引隠しなど様々です。
タックスヘイブンという言葉は、私が外資系会計事務所で仕事を始めた25年前にもすでにあり、グローバル企業が利用していました。しかしその頃、一般の人が耳にすることはありませんでした。ではなぜ今、パナマ文書、次にバハマ文書として世界のメディアに大々的に報じられているのでしょうか?
それは次のような背景によります。
今まで先進国の税金の主な負担者は分厚いの中間所得者層でしたが、経済のグローバリゼーションのため貧富の差が大きくなり、中間所得者層の剥落が起き、先進各国は財政危機が起きています。
中間所得者層からの安定的な税収が期待できなくなったため、各国課税庁は代わりに、過去においてタックスヘイブン利用による課税逃れが見逃されてきた超富裕層をターゲットに徴税執行を強化しているのです。
経済協力開発機構OECDは、平成26年にBEPS(Base Erosion and Profit Shiftingの頭文字、日本語では「税源浸食と利益移転」)の対策を発表しました。
税源浸食と利益移転とは、グローバル企業等がグループ関連者間における国際取引により、二国以上の課税制度の違いから生じる国際的二重非課税を利用して租税回避行為を行うこと、つまり各国の課税制度の違いを利用して税率の高い国から無税又は低い税率の国へ所得を移し、納税額を最小限に抑える行為です。
2015年FIFA汚職事件(汚職の容疑でスイス司法当局がFIFA国際サッカー連盟の幹部を逮捕した事件)、2016年オリンピック招致に関連するフランス刑事当局の動きなども、OECDによるBEPS対策強化に関連しています。
スターバックス、アマゾン、マイクロソフト、フェイスブック、グーグルやアップルなどの世界的に有名なグローバル企業も、これまでBEPSにより税負担を抑えてきました。これは違法ではなく合法的な課税逃れではありますが、このような手法に対して倫理的に問題ありと批判が高まっていることも事実です。
今後は国家が自国国民の個人情報を集めて、税務などの目的で利用する動きがますます加速していきます。日本では2015年に施行開始されたマイナンバー制度もその表れのひとつです。そのように集められたビッグデータは、世界各国の情報交換制度により共有され、超富裕層と富裕企業・グループをターゲットにした課税執行強化の傾向はますます強まるでしょう。
中小企業のために仕事を行う私のような税理士も、このような世界の潮流を常に意識しつつ、大局的な見方を鍛え日々業務にあたることが非常に大切だ、と実感した研修でした。