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2017/02/26

中小企業のM&Aについて

中小企業の後継者不足が、大きな問題となっています。
そこで、M&Aによる事業承継の2つの大きな手法「株式譲渡」と「事業承継」について、
それぞれのメリットと注意点を中心に比較してみます。

■「株式譲渡」とは?

売手企業の株主が保有する株を買手企業に譲渡することにより事業承継を行う、一番シンプルで分かり易い方法。
株主が変わるだけで売手会社は存続し、資産、負債、従業員などはそのまま引き継がれます。

<主な税金> 個人に対して所得税など20.315%
売手企業の株主である個人が受取る株式の譲渡益に対して所得税が課税されます。

■「事業譲渡」とは?

売手企業の事業そのものを買手企業に譲渡する方法。
一部譲渡、全部譲渡のどちらも可能で、不採算事業や会社の規模を縮小する際に多く用いられます。
事業を運営する会社が変わるため、事務所の賃貸借契約、光熱費や通知費の契約雇など、契約が必要なものについては、
すべて買手企業が再契約することになります。
また、従業員は一旦退職し、新しい会社と雇用契約を結び直します。

<主な税金> 会社に対して法人税等 21%~34%
売手企業が受取る事業の譲渡益に対して法人税が課税されます。

■現在の採用状況は?

1.「株式譲渡」と「事業譲渡」の選択数の比較

現状では「株式譲渡」が85%と高く、ほとんどの場合採用されています。
「株式譲渡」が採用される要因として主に次の点が挙げられます。

① 「株式譲渡」のメリットから見た要因
・「事業譲渡」に比べて譲渡手続がシンプルで分かりやすい。
・「株式譲渡」は株主が譲渡代金を直接現金で受け取ることができるため、経営者はそれをリタイア後の生活費や余裕資金に
充てることが出来る。
・株主と経営者が一体である中小企業の経営者にとって、退職金も受領できるなどの経済的メリットが大きい。

② 買手企業の事情から見た要因
中小企業の場合売手企業は単一事業が多いため、「株式譲渡」は、デューディリジェンス(買手企業による売手企業に対する
詳細な調査)負担が軽微となり、リスク判断が容易に出来る。
そのため多少のリスクを覚悟しても「事業譲渡」に比べて譲渡手続が楽な「株式譲渡」が多く選択されるものと考えられる。

2.売手企業が「事業譲渡」を選択する場合とは

・同一会社で複数の事業を行っている
継続したい中核事業のみを残し、それ以外の事業を売却するケース。会社全体の売却が出来ないため、必然的に「事業譲渡」を
選択することになります。

・会社所有の不動産を「事業譲渡」後も継続保有したい
手放したくない不動産を保有しており、経営者が「事業譲渡」後もその不動産の継続保有を希望するケースです。
例えば、本業の事業は後継ぎがいないため売却したいが、不動産賃貸業など比較的運営に手間がかからない事業のみを
継続したい場合などがあります。

・法人格を継続使用したい
経営者が会社の法人格に思い入れがあり、「事業譲渡」後に、その法人格を使用して、新事業や社会貢献活動を行いたいと
希望しているケースです。

・「株式譲渡」断念に伴う「事業譲渡」
「事業譲渡」が選択される場合はこのケースが多いようです。
その背景として、当初「株式譲渡」を検討していても、問題のある株主がいたりや簿外負債・個人保証などがあり、
その解消が進まないことなどが考えられます。
また、経営者が高齢で、急な病気や怪我などで回復が困難となり廃業を急ぐため、
やむを得ず「事業譲渡」を選択する場合などもあります。

3.買手企業が「事業譲渡」を選択する場合とは

・節税のため
後述のとおり、「事業譲渡」では投資額に節税効果を効かせることができるため、買い手にとっては、「株式譲渡」と比較して
実質的な(節税効果考慮後の)投資額が小さくなります。

・不要の資産を引き継がないため
売手企業が投資用不動産や過大な事業用不動産を保有している場合、「事業譲渡」を選択することで、買手企業は不要な資産を
承継せず、身軽な形で購入を進めることができます。

・簿外債務、税務リスクなどの回避のため
「事業譲渡」では承継する負債を限定することが可能なので、購入時点では予見できない簿外債務や偶発債務、
税務リスクなどの、不本意な承継を回避することができます。

■「株式譲渡」と「事業譲渡」のメリットと注意点

1、「株式譲渡」について

(1)主なメリット
①売手企業にとって
・M&A の手続そのものがシンプルで分かり易く、また所要期間も早い。
・尽力して築いてきた会社を存続させることができる。
・社会へのサービスや技術、市場、取引先、従業員が引き継がれる。
・経営者個人に直接お金が入ってくるので、創業者利益の実現やハッピーリタイアを行いやすい。
・税金面では、経営者等個人の「株式譲渡」益に対する税金20.315%のみ(所得税15.315%、住民税5%)がかかるだけなので、
税額が抑えられ、また計算もシンプルとなる。

②買手企業にとって
・許認可が必要な事業の場合、売手企業の許認可を買手企業がそのまま承継出来る。
・売手企業の繰越欠損金を引き継げる。
・消費税を上乗せして払う必要がない。
・「株式譲渡」は消費税法上「非課税取引」のため、対価に消費税が課税されることはない。
・譲渡資産に不動産が含まれていても、所有者が変わらないため不動産取得税や登録免許税を新たに支払う必要はない。

(2)主な注意点
①売手企業にとって
・会社全体を譲渡するため、一部の事業や一部の資産を残すことが出来ない。
・株の譲渡益にかかる所得税と地方税の納付時期が異なるため、注意を要する。

②買手企業にとって
・「事業譲渡」に比べて資金調達負担が大きい。
・購入時点では予見できない簿外債務や偶発リスクがある。また、税務リスク(役員退職金の否認など)もそのまま承継してしまう。
法人税にかかわる更正の期間は5年間だが、実務上過去3年間分を税務デューディリジェンスの対象とするケースが多い。
・デューディリジェンスのコスト負担が大きい。
・資産調整勘定(のれん)がないため、節税メリットがない。
資産調整勘定=「事業譲渡」の対価-譲渡した資産および負債の純資産価額
「事業譲渡」の場合、のれんは営業権として税務上5年間で均等償却し損金に算入できるが、「株式譲渡」は資産と負債が
移転しないため、のれんが認識されない。
・簿価のステップアップが出来ない
簿価のステップアップについては、後述「事業譲渡」の主なメリットで説明

2、「事業譲渡」について

(1)主なメリット
①売手企業にとって
・売却したい事業のみ売却でき、継続したい事業や資産を会社に残すことができる。
・譲渡した資産の譲渡損を活用して法人税の軽減が図ることができる。

②買手企業にとって
・資金調達負担が少ない。
・必要な事業、資産のみを購入できるため、簿外債務や偶発債務のリスク負担がなく税務リスクを継承しないで済む。
・デューディリジェンスのコスト負担が小さい。
・購入したのれんは、営業権として税務上5年間で均等償却し損金に算入できる。
・引き継いだ資産が時価10万円未満(中小企業は30万円未満)の場合、少額減価償却資産として、その期に損金算入できる。
・引き継いだ資産の減価償却の計算上、中古耐用年数を採用できるため、償却費として早期に多く計上できる。
・引き継いだ資産が消費税の課税対象である場合、消費税を上乗せして払う必要があるが、買手会社が課税事業者である場合、
その消費税は仕入れ税額控除できる。
・簿価のステップアップが出来る。
買手企業は、売手企業の資産を時価で取得し、時価をもって取得価額とする。
仮に「帳簿価額1,000、時価1,500の資産を譲渡した」場合、その資産の簿価は時価の1,500となり、簿価がステップアップし、 その分償却費が多くなる。

(2)主な注意点

① 売手企業にとって
・単一事業を行う企業の場合、事業を譲渡しても結局は清算手続が必要となる。
・M&Aでしばしば実行されることがある「役員退職金の支給」で、支給額が過大であると税務当局に否認される可能性があり、
否認された場合、更正の手続き負担が発生する。
・従業員の労働契約は個別の承継事項となるため、譲渡後、雇用条件の悪化や雇用の維持が困難になる可能性がある。
・売手企業へ支払われた譲渡対価を個人へ還元する場合、配当や給与・役員退職金として個人へ支払うたびに課税がされてしまう。

② 買手企業にとって
・許認可が必要な事業の場合、売手企業の許認可を買手企業が承継できない。
・売手企業の繰越欠損金を引き継げない。
・購入資産に不動産が含まれる場合、所有者が変わるため不動産取得税や登録免許税が課税されてしまう。

■譲渡方法の選択に大切なことは?

中小企業の事業承継M&Aは、「株式譲渡」と「事業譲渡」の相違点を理解することとから始めましょう。
そして、まずはシンプルで分かりやすい「株式譲渡」の検討から始めることがベターです。
ただし、M&Aの目的や会社、株主の状況によっては別の手法が向いている場合があります。
どの方法がベストなのかを判断するために、事前準備として情報収集や専門家への相談などを行うことが重要です。

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